同じ名物を出す店が、通りに何軒も並んでいる。うなぎ、かに、鮎、そば、海鮮丼。日本中どこにでもある景色です。
そういう地域を歩いていると、はっきり分かることがあります。同じものを出していて、値段も似ていて、味も大きく違わない。それでも、行列ができる店と、そうでない店に分かれます。
何が違うのか。長く見てきて、思うところを書きます。味の話ではありません。味が同程度だという前提で、そのうえで何が分かれ目になっているか、という話です。
お客様は、実は「選べない」
まず、お客様の立場に立ってみます。
初めてその土地に来て、名物を食べようとする。通りに10軒並んでいる。どれも美味しそうで、どれも同じに見える。この状態では、選ぶための材料がありません。
そして、材料がないとき、人は次のどれかで決めます。
- いちばん混んでいる店(他人が選んだから)
- いちばん有名な店(聞いたことがあるから)
- いちばん手前の店(歩くのが面倒だから)
- 誰かに勧められた店
どれも、味とは関係のない理由です。そして、この4つのうち3つは、行列がさらに行列を呼ぶ構造になっています。だから、いちど差がつくと、その差は広がり続けます。
分かれ目1:選ぶ理由を、渡しているか
流行っている店は、たいてい「なぜここなのか」を一言で言えます。
そしてそれは、必ずしも「いちばん美味しい」ではありません。
「創業から継ぎ足しているタレ」
「その日の朝に揚がったものだけ」
「炭で焼くのは、この通りでうちだけ」
「先代から、注文が入ってから捌いています」
どれも、比べられる形になっています。「美味しい」は比べられませんが、「炭で焼いている」は比べられます。お客様は、比べられるものでしか選べません。
逆に、伸び悩んでいる店の説明は、たいてい「素材にこだわり、真心を込めて」です。悪いことは何も書いていません。ただ、隣の店とまったく同じことを書いています。同じことを書いた時点で、選ぶ材料にはなりません。
大事なのは、優れていることではありません。違いが分かることです。
分かれ目2:一番手を狙っているか、二番手で満足しているか
これは厳しい話ですが、書きます。
同じ名物の地域では、たいてい「ここが一番」とされる店があります。そして、その店に入れなかった人が、二番手以下に流れます。この構造に乗っていると、売上は立ちますが、店の名前は残りません。
「あそこが混んでいたから、この店にした」——このお客様は、次に来たときも、まず一番手に並びます。名前を覚えていないからです。
ここを抜けるには、一番手と同じ土俵で勝とうとしないことです。
- 時間で外す。朝から開けている、夜もやっている、通し営業
- 人数で外す。ひとりでも入りやすい、逆に団体を受けられる
- 目的で外す。法事、記念日、子ども連れ、ペット同伴
- 食べ方で外す。持ち帰り、部屋食、少量ずついろいろ
「うちは一番手ではない」と認めたうえで、別の一番を取る。この判断ができた店が、抜けていきます。
分かれ目3:来る前に、決まっているか
ここが、いまいちばん差がついている部分です。
昔は、現地に着いてから店を選んでいました。だから立地と外観が効きました。いまは違います。多くの方が、来る前に決めています。
宿の予約と一緒に検索する。前日の夜に調べる。車の中で助手席の人が探す。その段階で決まった店に、まっすぐ向かいます。通りを歩いて比べる、ということ自体が減りました。
ですから、通りでの立地が悪くても、検索で見つかれば十分に戦えます。逆に、一等地にあっても、来る前の段階で候補に入らなければ、通り過ぎられます。
Googleマップ …… 営業時間・定休日・写真・口コミ・駐車場
写真 …… 料理そのもの、店内の雰囲気、席の様子
値段 …… だいたいいくらで食べられるのか
予約できるか …… 電話しないと分からない、は不利になりました
この4つが揃っていない店は、味とは無関係に、候補から外れています。そして、外れたことは店には見えません。
分かれ目4:写真が、料理を裏切っていないか
これは本当によく見ます。
実物は素晴らしいのに、Googleマップに載っている写真が、暗い店内で撮った不鮮明なものだけ。これだけで、相当な数を取りこぼしています。
お客様は写真で判断します。そして、比べます。隣の店の写真が明るくて美味しそうなら、そちらが選ばれます。味は、来てもらってからでないと伝わりません。写真は、来てもらうための道具です。
プロに頼まなくても、いまのスマートフォンで十分に撮れます。窓際の明るい席で、真上からと斜め45度から。これだけで見違えます。
分かれ目5:二度目を作る仕掛けがあるか
観光地の店は、一度きりのお客様が多くなります。だから「二度目は無理だ」と考えがちですが、そうでもありません。
- 季節で理由を作る。「次は◯月からの◯◯の時期にどうぞ」と伝える
- 贈り物にできるようにする。持ち帰り、配送、のし対応
- 連絡先を残してもらう。SNSでも、季節の案内でも
- 近隣の宿と組む。宿からの紹介は、いちばん確実な導線です
とくに最後は効きます。宿は、お客様に「夕食はどこがいいですか」と必ず聞かれます。そこで名前が出るかどうかは、通りでの立地よりよほど大きい差になります。
結局、味は関係ないのか
もちろん、関係します。ここまで書いたことは、すべて「一度来てもらうまで」の話です。
味が伴っていなければ、口コミが伸びず、二度目もなく、宿も紹介しません。短期的には人が来ますが、続きません。
逆に言えば、味に自信のある店ほど、ここまでの話が効きます。一度来てもらいさえすれば、あとは料理が仕事をしてくれるからです。ところが実際には、味に自信のある店ほど「いいものを出していれば分かってもらえる」と考えて、来てもらうための部分を放置していることが多いのです。
もったいない、といつも思います。分かってもらうためには、まず来てもらわなければなりません。
今日からできること
費用のかからない順に3つだけ。
まず、この3つ
- Googleマップの写真を10枚、明るいものに入れ替える。看板料理、店内、席、外観。無料で、いちばん効きます
- 「なぜうちなのか」を一言で書く。「こだわり」「真心」を使わずに。使えないと気づいたら、そこが考えどころです
- 近隣の宿に、一度あいさつに行く。紹介してもらえるかは、顔を知っているかで決まります
1と3は、今日からできます。2は少し時間がかかりますが、いちばん大事な部分です。
「なぜうちなのか」、一緒に探しましょうか。
お店の名前を教えていただければ、周辺の同業とどう見え方が違うかを確認してお伝えします。
制作のご依頼でなくて構いません。話しているうちに、ご自身で見つかることもあります。